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嫌いな人

嫌いな人っています?


私はたぶんいません。あんまり人を嫌いになる才能が無いのかもしれません。

「興味がない」「関わる気がない」といった無関心の類はありますが、それはもはや感情ではありません。嫌いも関心のうちなので、過去に嫌がらせをしてきた人すら別に嫌いでないことに気づくと、自分の忘れっぽさとおめでたさにちょっと感謝する時があるくらいです。



でも、メディアやSNSを見ていると「ちょっとこの人は好かんなァ」と思ったり、私も実は音楽家ですので他人の演奏を聴いて「ちょっとこの人は無理だなァ」と思ったりすることがあります。

そんな人も大体、対面して3分も話せば「結構好きな人」か「どうでもいい人」に分類され、ネガティブな感想はいつの間にか霧散するもので、「無理とか思って悪かったなァ…」なんて密かに罪悪感を抱いたりする始末です。

もしも端末上で関わる全ての人達が生身で会って話すことができるとしたら、この世から誰かのアンチっていなくなるんじゃないかな。

なーんて常々思ったりしています。


こう説いてみると、平和主義者に聞こえるでしょう?

ところがどっこい。

一方で、突発的に「何だコイツ去ね」と自分でも驚くくらい胸の中が沸騰する瞬間が、私にもあるわけですね。しかも結構しょっちゅうあるんですね。どうも唐突にイライラする危ない野郎みたいなんですね。



ーーそれは先日、マクドナルドの窓に向かう一人席でPCを開き、鬼の形相で雑務を片付けていた時のこと。 左隣のお兄さんが突然喋り始めました。相手なんていません。隣なので一人用の席です。恐怖。私は血走った目を左に滑らせました。不審者ではなさそう…小綺麗なちょっとロン毛のオシャレお兄さんです。彼もPCを開いています。

「それでは時間になりましたので、始めさせて頂きたいと思います」

お兄さん。

なんと、オンライン会議を始めたのです…!

ええェ?!ここで?!しかも司会進行してるじゃん?!MC?!家でやれよ!!!

刺そうかな!!と、咄嗟に私の全身に殺意が駆け巡りました。コレです。誰かをとんでもない熱量で大嫌いになる瞬間です。

お兄さんは勿論気づきもしません。私とお揃いのPCの画面で格子状に区切られた10人くらいの面々が粛々と頷いております。うそだろぉ…


お兄さんはイヤホンをしていたので会議の内容がダダ漏れということでもないのですが、そもそも人は相手が不在である他人の会話に不快感を覚えるというデータがあり、公共性の高い室内での通話はマナー違反とされています。

マクドナルドだからいけないんか?治安の悪さは仕方ねぇってか?スタバ行けってか?!?!

しかーし。

どうも様子がおかしい。

一向に終わる気配のない会議に耳を澄ませていたわけではなく、普通に返事してやろうかというくらい真隣から堂々と聞こえてくるのですが。

「ごもっともですが」「十分にわかりました」「話を戻して」「後で個人的にうかがいます」「本題は」…

お兄さんはどうやらやり取りが横道に逸れるのを、やんわり戻していく軌道修正の作業に苦心しているようです。すんげぇマナー違反をしていますが、会議上とっても常識人の振る舞い。脳バグるって。

そんなことばかり繰り返すうち、おそらく収穫のないまま会議が終わった模様。お兄さんは深々と頭を下げ、息をつきます。フゥ、これで静かになる…と思いきや。

「あぁお疲れ、あのさぁ」

お兄はん!!なんと!!今度は電話をかけ始めるじゃないですか?!お兄…お兄はん…?!

「ああいうの困るから」「前にも言ったじゃん」「人の話聞いて」「すぐできることある?」…

そう、通話相手は今終わったばかりの会議を無収穫にした例の元凶らしいのです。しかもそいつは部下らしい。お兄はんは穏やかな司会進行が嘘のようにイラついた口調で相手を責め、ため息をつきながら電話を切ります。

この後も静かになんかなりません。また別の人に電話をかけ始めます。今度は仲の良い同僚の模様。

「お疲れ。アイツもうダメだわ」「今泣き出しちゃってさ」「話になんねぇもん」「なんであんなんなんだろうな」「使えないからもう俺がやるわ」…


お兄はん!部下を泣かせてはる!!

お兄はん!罵詈雑言というよりは、重いため息をついて、もうお手上げのご様子!!


お、お兄はん、…


…かわいそ。


ようやく、数十分ぶりに口を閉じたお兄はんは「俺がやる」と告げたお仕事に猛然と取り掛かり始めました。

もう私はガッツリお兄はんのPCを覗いています。お兄はんはアパレル関係の方で、会議はセールについてで、今PCで作っているのはインスタの宣伝か何かのよう。

まあまたそのキーボードの怒涛のタッチ音のうるさいこと、うるさいこと。

しかし私はもう殺意を失っていました。いつの間にかお兄はんを憎む気持ちは跡形もなく消えていたのです。

ッターンッ!ッターンッ!

と無限に繰り返されるキーボードの音を聞きながら、お前も大変だな。と私は同情しました。わかるよ。他人が使えないからもう自分でやっちまえって、共感度100%の事案だよ。きっと気の済むまで使えない奴を責めたらイジメになっちゃうんだよな。お前だけじゃないよ、がんばれよ。そんで全部家でやってくんないかな。

私はもうお兄はんの肩を抱いて励ましたい気分です。


迷惑なお兄はんが、迷惑をかけられて、ぐるぐる回る人の世。

…なんか、社会ってこういうものかなって。


こうして私はあのお兄はんを嫌いになるチャンスも逃しました。お兄はんも大変なんです。皆大変なんだよな。うん。そうだよな。コーヒー1杯で会議開始から後始末まで粘ってる私も迷惑な客なんかな。すっかりコーヒーがぬるいしな…



ーーというわけで、嫌いな人ってなかなかできませんよね、というお話。


実際お兄はんのような迷惑さんよりも、お兄はんの部下のような圧倒的弱者の振る舞いをする人の方が嫌いな気もするのですが、たぶんその泣き虫な部下にも実際会ったら、素直でいい子だ、などと思ったりすることでしょう。

あのお兄はん元気かな。

最近私は本当に集中したい時はデパートに入っているスタバに行くことにしています。




 それにしても暑いですね。いつでもアイスを食べたい今日この頃!

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