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夏の終わり

夏を耐え忍び今日まで辿り着きましたか? 同志よこんにちは、金井です。


夏は苦手です。海?フェス?BBQ?ナイトプール?

くたばりたもう。ライフポイントを盛大に消費するあんなイベントたちは私のような者には無縁です。

一歩外に出れば地面からの放射熱、空からは殺意の陽射し、いつもの道さえ蜃気楼、毛穴という毛穴から水分が抜けて常時めまい、貧血、朝は暑くてアラームの前に目覚める、エアコンが不快でも目覚める、電車は寒い、木造の家はサウナの匂い、彼方へ消え失せる食欲、地獄、それが夏。


死ねば良いのに。

少し前までの私はそう思っていました。一体何に死んで欲しいのかは全くさだかではありませんが、瞬間的に暑さにやられた時の反応として、定型文で脳の表面に発露されるんですよね。死ねば良いのに、って。


そんな私でもいい夏がありました。留学時代、そう、パリ。北海道と同じくらいの緯度のパリの夏はなんと過ごしやすかったことでしょう。本当に暑い時期はたった一週間でした。故に音楽院もアパートもエアコンがないことは難点といえば難点でしたが、その一週間さえもからっと乾いた空気に感謝しながら耐えれば、ゆるやかな涼しさが漂う素晴らしい街でした。


浅はかな私は4年間で夏のつらさを忘れました。そして帰国して初めての夏、絶望しました。え、無理じゃね? てか5年前までより絶対暑いし夏長くね? え、夏延びてね?


毎年こんなことではいけない。学生の頃なら講義に滑り込んでいればその後いくら生ける屍になろうとも構わず月日は過ぎていきましたが、今や社会人の端くれ。やばし。これはやばし。


悟った私が生存本能で覚えた秘技、それが「無」です。睡眠教夏天敵派の同志に伝授しましょう。「無」それが私たちの命綱です。

以前の記事で忙☆殺された私が「無」を行使したことはお話しましたね。これはそもそも夏を越えるために習得した技の応用編です。


「無」とは何か。

「無」、それは必要なことだけ唱える、それ以外は感じない、いわゆる「OFF」の呼吸です。

いわゆるOFFってなんだ。いやそもそも呼吸ってなんだ。生徒という生徒がハマっているので鬼滅は全部観ましたよ。無限列車は観に行けてないよ。


エアコンをつけているにも関わらず、天窓から刺し込む陽射しに焦がされて寝続けることが不可能になるとします。そこで「暑い」とか「まだアラーム鳴ってない」とか思うことを破棄します。心の中で一つだけはっきりと呟くのです。「起きる」。


メイクをしてもそれ意味ある? ってくらい汗が噴出して全ての努力が水泡に帰す時、「今までの時間は…」などと思うことを破棄します。呟くのです。「あ、日焼け止め」。


玄関のドアを開けた瞬間襲いかかる熱気と湿気に「これは死n…」などと萎えてはいけません。淡々と呟くのです。「普通に歩けば間に合う」。


ゲリラ豪雨というわけのわからない刑罰に疑問を抱いてもいけません。さあ、呟きましょう。「傘」


…とまあこんな具合で元気に生き延びて、この夏もつまらぬスキルを上げてしまった…と悦に浸っていたのですが、今年は皆口を揃えて言いますよね。「夏、短くなかった?」

え、夏、短かったんですか? スキルが上がったわけじゃなかったんですか? 


ちなみにつまらぬスキルを上げてしまった=頭空っぽの精度が高かった、ということなので、そうですね…価値ある秘技をお伝えしたはずですが、勘の良い皆さんなら薄々お気づきかと思います。

一日のタイムスケジュールをこう夏休みの小学生みたいに円グラフにーーあの文化って今もあるんですかね? 書いた通りに過ごせたことなんか一日も無いのであんなものは絶望する為のツールを己の手で作るという無情な作業だったのですが私だけでしょうかーーまあそんなことはどうでもよくて、円グラフに表してみたとすると、「無」の時間と睡眠時間は名前こそ違えど同じ色に分類されますよね。質としてはあんまり変わらないですからね。つまり機能していない時間が増えているというだけということですね。え、…更に…?


本当、誰もがこの技を習得してくれれば、誰もが精神的な成長速度を落としてくれることになるわけで、足並みを揃えてもらって私としては救われる思いなんですけれど、この夏も皆さんは順調に成熟し、私を取り残していかれたのでしょうねえ。


来年も夏が短いといいなぁ。


(「夏の終わり」という森山直太朗さんの名曲を初めて聴いた時、手放した情緒が一気に胸に戻ってきたような気がしたものです。あの曲が生まれた以上私はこれからも永遠に夏の間の成熟の欠片を手に入れることができます。感謝。しかしながら当時私は彼を「森山ちょくたろう」さんだと思っていました。何故?)



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